ベートーヴェン:悲愴・月光・熱情
グールド(グレン)
ソニーレコード
\2,678
\2,491
1989/06/21


★★★★☆ (4.0)
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1.ピアノ・ソナタ第8番ハ短調op.13「悲愴」
2.同第14番嬰ハ短調op.27-2「月光」
3.同第23番ヘ短調op.57「熱情」

 「悲愴」というタイトルとはうらはらな乾いた感性が、グールドの持ち出してきたこの曲の解釈の核だ。冒頭に出てくるいくつかの和音からして、強調された低音の上に薄い音の層が乗っているような響き。どろどろとしたベートーヴェンが好きな人向きの演奏でないことはすでに明らかだ。そうした人々は、鼻にかかった甲高い声を連想させる軽めの音色にも不満を感じることだろう。しかし、おおげさでない演奏を求めるリスナーにとってみれば、この音色こそが好ましく感じられる。彼らなら、キリリと冷えた白ワイン、それも少しスモーキーで石の香りが混じった辛口タイプに似ているとでも言うだろう。

 「月光」もまたドライな演奏である。第2楽章でのはねるようなリズム表現、大胆なテンポの動かし方などが興味深い。身軽で自由なベートーヴェンだ。以上2曲は、暗い部屋の中にいたベートーヴェンの曲を明るいところへ連れ出し、少しばかり運動をさせて健康増進のお手伝いをしてあげたような演奏といえるだろう。

 しかし、最後の「熱情」だけは話が違う。ただでさえ想像力が豊か過ぎる人間に不安の種をこれでもかと吹き込み、憂鬱の極みに追い込んでしまったような演奏だ。まずは第1楽章の異常に遅いテンポ。重い足かせを引きずり、真っ暗闇の中を意味もなく歩き回っているといった風情だ。その抑圧的な気分は曲を通して続く。ちょっとグロテスクでもあるが、その分、前2曲の軽やかさが引き立ち、アルバムの構成上、おもしろい効果を上げている。(松本泰樹)


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